12月22日 (土)  228号

「廃車長屋の異人さん」

 12月21日夕方、新国立劇場に家内と出かけ、静岡県舞台芸術センター(SPAC)主催の「廃車長屋の異人さん」という公演を観賞しました。1994年にスタートした日本、中国、韓国の演劇人による文化交流事業「第14回BeSeTo演劇祭」の一環の、しかもその締めくくりの上演だとの話でした。BeSeToとは、北京Beijing)、ソウル(Seoul)、東京(Tokyo)の頭の2文字をとって名づけられています。昨年も同じ時期に同じ場所で、SPACの「シラノ・ド・ベルジュラック」を観ましたので、私にとっては、N響第9演奏会と並ぶ年末恒例の行事となりそうです。

 この話は、帝政ロシア末期の貧民窟を描いた世界的名作であるゴーリキーの「どん底」を下積きに新解釈を加え、戦後の日本人の心を支えた演歌の女王美空ひばりの歌謡曲を重ね合わせて、近未来社会に生きる人間の姿を絶望と哀切とたくましさの中に描くという意図のようで、私には難解な部分が少しありましたが、その狙いはおおむね成功していると思いました。それにしても、舞台上の長屋の代わりとなっている廃車群が圧倒的な存在感を示し、そこに?み、出入りする吹き溜りの敗残者たちとの組合せも違和感がなく、要所要所で流れる美空ひばりの演歌が暗く哀しいなかにも人生の応援歌になっていて、奇妙に全体の流れにマッチしていることに驚きました。地方自治体が直接間接、こういうことを行う場合には色んな意見が出るものですが、これだけ国内外に反響があり、これだけ多くの人に感動を与えるとすれば、決して高い買物ではないと考えます。